温かな春~(同性)小説サイト~

思いのままに小説を書いたり、twitterでのリクエストにこたえたり、 作品に対する思いや秘話など語っていくサイトです。「冷たい春」の番外編を主に書いていますので、本編がまだの方は本編の方からぜひ読んでみてください!(Twitterに本編URLあります) twitter:@moco_ice

おかえりとさよなら

冷たい朝


「いたみ……どめ」

「痛み止めもお金がかかるんだぞ」

「……痛い、よう」


目の前がちかちかして、
痛い、以外のことばがうかばなかった。

きっとみんなこんな風になっているのに、
どうしてみんなは、痛いっていわないのだろう。

やっぱりこれは普通のことで、

きっとぼくに、堪え症がないのだとおもう。


「言っとくけど、痛みを瞬間的に止めたところで切れたら痛いんだからな」

「……う、ん」


ふいに、うでの中に針がはいっていくのがわかった。

針でさされたことは何度かあったけれど、
高槻さんのは、ちっともいたくなかった。


ぼんやりと天井をみつめながら、
ぼくのすきなことをおもいうかべる。


あけにくいパンと、
朝と、
絵本と、
それから、おなまえ。


「……あ。たかつき、さん。そういえばうれしいこと、あった」

「ふーん」

「あのね、名前を、決めてもらったみたいだった。
施設長さんが、最近”にんぎょう”って呼ぶの」

「お前、人形の意味知ってるのか?」


にんぎょうに意味なんてあるのだろうか。
ふるふると首を振ったら、彼はどこか哀れそうな顔でぼくをみた。


「それ、名前じゃないし。
もっと良い名前つけてもらえよ」

「エーとか、ビーとか?」

「それも違うな」


せっかくもらった名前を、否定された。

本当は、いいお名前じゃないんだって。
ぼくは、ぼくにも。


胸がぎゅっとした。

しめつけられて、痛い、痛いってなる。


おなまえがほしいっておもうことは、
おかしなことなのかなぁ。

だってみんな、おなまえがあるのに。


「……なんだ。僕には、やっぱり名前がないんだね」

「施設長は、お前に興味を持っていないからな」

「うん、知ってるの。
興味ないから、出してくれるって言ってた」

「出してくれる?檻からか?」

「……うん、あと一回、ものすごく痛いの耐えたら、あそこから出すって」


にこにこ笑うおひさまが、すき。
一度でもあれがみられたら、きっと、すごく、いいことなの。


「外出るの、嬉しいか?」

「うん。春がむかーし、外の朝は明るいって言ってた。
絵本見せてくれて、ほらねって。
太陽が笑ってるの」


まっくらでつめたくて、せまいおへやでしか生きてこなかったけれど、
ほんとうに、明るい世界はあるのかなぁ。

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おかえりとさよなら

冷たい朝


痛いのくりかえしのなかで、

ぼくは、ずっとパンと朝のことをかんがえていた。
パンを一生懸命あけて、ほおばるときのあのしゅんかん。

そして、もうすぐ朝がみられるということ。


「ねえ、こんだけ好き勝手やられてるのに、悲鳴のひとつもあげないの?
お前って本当に人間じゃなくなっちゃったんだねぇ」


痛いが激しいところをみたら、腕がぱっくりときれていて、
そこから赤いものがだらだらとながれていた。

きっとまた、高槻さんが血を止めるの。


おてて、そっとおいてくれるかなぁ。


「こんな腫れた顔じゃ、殺害ビデオを撮っても売れないだろ。
需要ないな、ほんと。
さっさと処分。次は、外に出してやるから」


ここと、さよなら。
でもぼくには、おかえりの場所はないの。


息するのもいたいほどぼこぼこにされたら、
どこかに運ばれて、ベッドにしばられた。


ドアの開く音がしたけれど、そちらをむくのも痛いの。


「縛っといたから。治療しといてね、高槻」

「はい、おやすみなさい」


高槻さんの声を、くさいにおいと共にかんじる。

彼はよく、煙をだすものを口にくわえていたから、きっとそれなの。


施設長さんがおへやから出ていくと、うんうんとうなずいた。

今日は、おわりなの。



「……ねぇ、ねぇ。
痛みどめ、つかって、ほしいの」

「痛み止めを使ったところですぐには効かないよ。
だから、腕を縫う間は痛みを感じることになる」

「……うん、うん」


使えないというなら、しかたがなかった。

いつものことだから平気だけれど、
なにか、なぜか、平気じゃないのに。

頭の中がまっしろになって、よくかんがえられなくなる。


春がみやぎさんにつれだされて、
施設長さん、すこしイライラしていた。



「はるの、せい?」

「春のせいでなくても、同じようにボコボコにされていただろ」

「……はるは、いい子なの」


ぼくに絵本をよんでくれた、すきなの。
春はいい子だから、
春のせいなんてことは、絶対にないのに。
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おかえりとさよなら

冷たい朝


体中にはしる痛みははげしくて、
それは普通のことなのだけれど、
いつもより、ながいと思った。

「人形ちゃん」

それでも、にんぎょうってよばれると少しだけ胸がきゅってなる。
きっと、これはぼくのお名前なのだ。


ずっとずっと生きていて、ずっとずっとなかったお名前。


「お前さ、ずっと外に出たいって言ってたよね?
出してあげるよ。
次すごく痛いのに耐えられたら」

「おそと?」


ふみつけられたり、なぐられたりする中で、
施設長さんの言葉は、あのおひさまを思い出させた。


あさ。
朝が、みられるかもしれない。


「施設長さんそれって……あれでしょう?
ただ人形ちゃん処分するだけでしょう?」

「嘘は言ってない。
事切れれば、体は外にでるんだから」


お話していることは難しくて、あまりよくわからなかった。


それでも、うれしいの。

おそとにでられて、
ずっとおもいえがいていた朝がみられるのは、うれしいの。


「うん、うん、ありがとう」

「あはは、ありがとうだって」


ぼくは、あまりたくさんのことを知らないの。

でもぼくにだって見たいものがあるよ。
やってみたいことも、きっとあるよ。

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おかえりとさよなら

冷たい朝


少し眠っていたと思う。

冷たくて、寒くて目をあけたら、体はみずびたしになっていた。

目の前に施設長さんとエーさん、ビーさんがいて、
ビーさんは、バケツをもっていた。

きっと彼が、お水をかけたのだとおもう。


「お前さ、春がいなくなってるんだけどー?」


施設長さんは、笑っていた。
笑っていたけれど、少しだけ苛々していることも分かる。


「どうして教えなかったの?
足音とかで、気づいたよね?」

「春、さよなら?」

「お前さ、ほんと嫌いだな。
何にもわかってないし、馬鹿だし。
人形みたいだ。
人になりきれてないんだよ」

「にんぎょう?」


初めて呼ばれた呼び名だった。


「あは、人形!それいいですね、人形ちゃん!人形ちゃん!」

エーさんが、僕を指さして笑う。


もしかしたら、お名前かもしれなかった。
初めての、お名前。

そう思うと、胸がどきどきした。

僕にもついに、お名前ができたのだろうか。


「ねぇ、聞いてんの?」


おなかに痛みがはしって、けられたのだと分かる。

昨日食べたパンがおくちから出そうになって、必死にこらえた。


せっかくあけてもぐもぐ食べたのに、出たらもったいないの。

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おかえりとさよなら

冷たい朝


それから少し時間がたったくらいに、誰かが入ってくる足音がしたよ。

お部屋のドアをあけてのぞいたら、春は、だれかに抱っこされていたの。

となりには、”レンさん”もいた。

春をだっこしている人は、すぐに、”みやぎさん”なのだと分かったよ。


くやしそうな、泣きそうな目で春を見ていたけれど、
春をみる目は、あたたかかった。

きっとね、春は外で、朝と大切な人を手に入れたの。


そしてその人が、おかえりって、ただいまって、お迎えにきたんだよ。


ぼくは、施設長さんにしらせなかった。


だって春は、きっと、みやぎさんといたいから。


せっかく春とあえるとおもったのに、
また絵本を読んでもらえるとおもったのに、
すぐに、さよならになっちゃった。


あれ?と首をかしげる。

ぼくって、さよならにならないひと、いたっけ。


施設長さん?
ぼくを、殴るひとたち?
高槻さん?


でもみんな、ぼくと会うのはすこしで、
それいがいのじかんは、何をしているのかしらないの。


さよならしなくて良いひとが、いたらいいのに。


ほんのすこし、変なきもちが胸にのこった。

春をぎゅっとだきしめるみやぎさんに、ふしぎな気持ちになったのだとおもう。


顔がひりひりする。
このまえ、たくさんなぐられたから。

指が痛い。
このまえ、痛いことされたから。
どうして、つめはなくなっちゃったの?


ぎゅうっと腕をにぎった。
つよく、つよくにぎったら、他のいたみがやわらぐ気がした。


うん、うん。これなの。
こうしたら、少し痛みがやわらぐの。

うん、うん。

ぼくには、これしかできないよ。

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Author:もこ
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主にネットで小説を書いています。

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メール:mocoice21@gmail.com

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