冷たい朝
あさ
よく分からないけれど、
ぼくもヒロトになると面倒くさいんだって。
それならやっぱりぼくは、お名前ないの。
知らない味を噛んでいたら、
ヒロトがため息を吐く声が聞こえた。
「……お前、朝の光が見たいんだろ」
「うん、そう」
「なら、朝陽で良いんじゃねーの?」
「……あさひ……?」
その響きは、こころにおひさまがあたるみたいに温かくかんじた。
「……あさひ、きれい」
いま、ヒロトがくれたものがお名前だというのなら、
ぼくは、うれしくてたまらないの。
それなのに、なぜか同時に胸もくるしくなる。
どうしてなのだろう。嬉しいのに。
その響きがきれいすぎて、じんわりとこころがうめられていくの。
――それから、ヒロトにいわれてはじめてのお風呂に入った。
施設では、ホースでおみずをかけられることが”おふろ”だったから、
こんな風にあたたかなお湯で体を洗うのは、はじめてだった。
ぼくがうまくできないから、ヒロトは手伝ってくれたよ。
でも、濡れたまま用意された服を着たら、ヒロトはむっとした顔をしたの。
「ふざけんなよ、お前」
何で怒っているのか分からずに首をかしげた。
その間にもぽたぽたと体から水がおちていき、床をぬらす。
「ヒロト、おこってる?」
「怒ってるな、大体紘斗って何でいきなり名前で呼んでんだよ」
「あさひて、呼ばれたら、うれしい。名前で呼ばれたら、うれしい。
ヒロトもヒロトだと嬉しい……?」
「お前な……」
「怒ってる、痛いする……?」
濡れたままの体にバスタオルがかぶせられ、
ヒロトが強引にそれを動かす。
「い、た」
「あーあーむかついてるからなっ」
ほんのすこし刺激があるけれど、
濡れていたものが、すぐに拭かれていく。
ヒロトは、すごいの。
「ほら、終わり」
「……ヒロト」
「んだよ」
「そういえば、どして、ぼくは、ヒロトのおうちいるの?」
「俺が1番聞きてえよ。
なんで、朝陽なんか」
ヒロトは顔を歪めていたけれど、
ぼくは、胸をぎゅっとつかんだ。
やっぱりなんか、ここが変だ。
今、よんだ。
このひと、今よんだの。
あさひって、言った。
キラキラの朝陽クン☆
いっぱいいっぱい呼ばれて嬉しい思いを感じて、ホンの少し胸キュンを感じて、どんどん温かくて、キラキラの日々を過ごして行けるね♪
お名前呼ばれたら嬉しいから、『ヒロト』って、呼んであげてるんだもんね…
ホントに心根の優しい朝陽クンだから、絋斗サンも柔らかくなって行くんでしょうね♪
はぁ~、やっと苦しくなくなった(*^^*)