冷たい朝
おかえりとさよなら
痛いのくりかえしのなかで、
ぼくは、ずっとパンと朝のことをかんがえていた。
パンを一生懸命あけて、ほおばるときのあのしゅんかん。
そして、もうすぐ朝がみられるということ。
「ねえ、こんだけ好き勝手やられてるのに、悲鳴のひとつもあげないの?
お前って本当に人間じゃなくなっちゃったんだねぇ」
痛いが激しいところをみたら、腕がぱっくりときれていて、
そこから赤いものがだらだらとながれていた。
きっとまた、高槻さんが血を止めるの。
おてて、そっとおいてくれるかなぁ。
「こんな腫れた顔じゃ、殺害ビデオを撮っても売れないだろ。
需要ないな、ほんと。
さっさと処分。次は、外に出してやるから」
ここと、さよなら。
でもぼくには、おかえりの場所はないの。
息するのもいたいほどぼこぼこにされたら、
どこかに運ばれて、ベッドにしばられた。
ドアの開く音がしたけれど、そちらをむくのも痛いの。
「縛っといたから。治療しといてね、高槻」
「はい、おやすみなさい」
高槻さんの声を、くさいにおいと共にかんじる。
彼はよく、煙をだすものを口にくわえていたから、きっとそれなの。
施設長さんがおへやから出ていくと、うんうんとうなずいた。
今日は、おわりなの。
「……ねぇ、ねぇ。
痛みどめ、つかって、ほしいの」
「痛み止めを使ったところですぐには効かないよ。
だから、腕を縫う間は痛みを感じることになる」
「……うん、うん」
使えないというなら、しかたがなかった。
いつものことだから平気だけれど、
なにか、なぜか、平気じゃないのに。
頭の中がまっしろになって、よくかんがえられなくなる。
春がみやぎさんにつれだされて、
施設長さん、すこしイライラしていた。
「はるの、せい?」
「春のせいでなくても、同じようにボコボコにされていただろ」
「……はるは、いい子なの」
ぼくに絵本をよんでくれた、すきなの。
春はいい子だから、
春のせいなんてことは、絶対にないのに。
うんうん
あー、でもでも可愛い朝陽ちゃんが痛いのは辛いなぁ〜。
そっか、これがあるから、あのお帰りで涙(お水)が出ちゃったんだね。
朝陽ちゃん、いっぱい泣いて、そしてその後、いっぱい笑って欲しい。ちょっと垂れ目の可愛らしいお顔にいつでも微笑みを絶やさないようにしてあげてね、ヒロトさん。
雨の間、あんなに涼しかったのに、雨があがったらいきなりの暑さ……年寄りに優しくないぞ今年の秋。という季節の変わり目。夏バテの戻りにお気を付けくださいませ。