全員
それぞれの不安
リクエスト 切ないお話
春
ーーよくよく考えたら、俺たちは全員、幸せな家族を知らない。
今、理人さんに朝比奈さん、蓮さん、高槻さんは、理人さんのお部屋でお話をしている。
仕事の話をすると言っていた。
その間、俺たちは朝比奈さんの家に集まった。
俺と、翔と、唯と、朝陽でテーブルを囲む。
朝比奈さんと悠が用意してくれたのであろうお酒とおにぎりは机に並んでいた。
「診療所を開業するの、本気だったんだな。
一体どんな話してんのかね。
なんか、俺たちも一緒に働かせる気ではいるらしいけど」
悠がテレビをつけながらぶっきらぼうに話す。
一緒に、働く。
それは嬉しいことのようで、不安なことでもあった。
俺は世間知らずだから、かえって邪魔になりそうだ。
「おしごと、いっしょ。そしたら、ずっと一緒?」
「ずっとってこともないかもね。
俺さ、時々思うんだ。
今は幸せだけど、いつまで一緒にいられるのかなって。
家庭を持つとか、子どもを作るとか、多分当たり前のことだよねー
蓮さんに誰か大切な人ができた時、俺は潔く手を引けるかな」
朝陽の質問に、唯が返す。
唯の言っていることは、真っ当だ。
テレビでは、家族の特集があっていた。
母親と父親が、小さな子どもの手を引いて歩く手助けをしている。
「……理人さん、子ども好きそうだよね」
出来るだけ明るく話したつもりが、少し声は小さくなってしまった。
世間一般の幸せな家族は、
俺には築けないのだろうと思う。
「翔は、馬鹿だけど、俺は幸せな家族を知らないから、翔には幸せな家庭を持って欲しいとも思えるよ。
……俺たちは男だし、結構迷惑かけてる部分も多いしさ、その時が来たら、仕方ない。
俺に、このテレビ見たいなことは、出来ないし」
家族の笑顔が映った番組を、悠は消してため息を吐いた。
それからやや乱暴におにぎりを頬張る。
「ずっと、いっしょは、ないの?
ヒロトは、出ていかなくていいって、言ったの」
首を傾げる朝陽は、まだ何も知らない。
一般的な幸せな家庭が、どんなものかってことを。
NoTitle