三上×レイ
ほんの少し、温かな春③
「……行く」
「もういいのか」
しばらく見つめていた後、レイの方からそう切り出す。
”行こう”とか”もう帰ろう”でないのは、どこか違和感も感じる。
レイの世界は、まだ自分とルイしかいないのかもしれない。
「やっぱりまだ会えないものなのか?
ルイはきっと喜ぶと思うけど」
彼は俺の言葉に返答もせず、歩き出す。
これまでルイのことで散々悩み、散々苦しんできた彼のことだから、
きっと何か思うところはあるのだろう。
駅までの道中、桜が舞い降り、綺麗な道を作っていた。
施設へ向かう時は、急いでいたのもあってよく目を向けられなかったけれど。
「桜、綺麗だな」
「……冬には、何も纏っていなかった」
「そりゃそうだろ」
「時がたてば、いつか」
レイが何かを言いかけて、口ごもる。
「いつか?」
聞き返せば、彼はまた自分の手のひらを見つめた。
「いつかこの手の赤は、消えるの」
手の、赤。
こいつは頻繁に、自分の手を眺める。
誰かを殺めようとした代償は、裁判で勝ってなお、つきまとっている。
「消えるよ」
「そう」
彼の中で心が安定し、手の赤が消える時。
それがきっと、レイがルイと会う気持ちになる時なのかもしれない。
「ま、ちゃんと食べて寝ればな」
「……それ関係ある?」
寂しげな木は、やがて綺麗に彩られる。
冷たい冬は、やがて温かな春になる。
レイにとってはまだ、ほんの少しの温かな春かもしれない。
「面倒みてやるよ、クソガキ」
「何笑ってんの?」
不器用で頑固なこいつの春が、本当に温かくなるまで。
舞い降りる薄桃の花びらを眺めながら、俺は微笑むのだった。
「もういいのか」
しばらく見つめていた後、レイの方からそう切り出す。
”行こう”とか”もう帰ろう”でないのは、どこか違和感も感じる。
レイの世界は、まだ自分とルイしかいないのかもしれない。
「やっぱりまだ会えないものなのか?
ルイはきっと喜ぶと思うけど」
彼は俺の言葉に返答もせず、歩き出す。
これまでルイのことで散々悩み、散々苦しんできた彼のことだから、
きっと何か思うところはあるのだろう。
駅までの道中、桜が舞い降り、綺麗な道を作っていた。
施設へ向かう時は、急いでいたのもあってよく目を向けられなかったけれど。
「桜、綺麗だな」
「……冬には、何も纏っていなかった」
「そりゃそうだろ」
「時がたてば、いつか」
レイが何かを言いかけて、口ごもる。
「いつか?」
聞き返せば、彼はまた自分の手のひらを見つめた。
「いつかこの手の赤は、消えるの」
手の、赤。
こいつは頻繁に、自分の手を眺める。
誰かを殺めようとした代償は、裁判で勝ってなお、つきまとっている。
「消えるよ」
「そう」
彼の中で心が安定し、手の赤が消える時。
それがきっと、レイがルイと会う気持ちになる時なのかもしれない。
「ま、ちゃんと食べて寝ればな」
「……それ関係ある?」
寂しげな木は、やがて綺麗に彩られる。
冷たい冬は、やがて温かな春になる。
レイにとってはまだ、ほんの少しの温かな春かもしれない。
「面倒みてやるよ、クソガキ」
「何笑ってんの?」
不器用で頑固なこいつの春が、本当に温かくなるまで。
舞い降りる薄桃の花びらを眺めながら、俺は微笑むのだった。
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