温かな春~(同性)小説サイト~

思いのままに小説を書いたり、twitterでのリクエストにこたえたり、 作品に対する思いや秘話など語っていくサイトです。「冷たい春」の番外編を主に書いていますので、本編がまだの方は本編の方からぜひ読んでみてください!(Twitterに本編URLあります) twitter:@moco_ice

くらやみ

呟き


「お前、顔分からなくなったな」

「わからなくなった?」

高槻さんのお部屋にある鏡をのぞいたら、
そこにはぼこっとふくれた頬と、そのせいであまり開けられない瞼がうつっていた。

まるで、自分のおかおじゃないみたい。

あれ、ぼくは、そもそもどんな顔をしていたっけ。

誰かに聞こうかなぁと思ったけれど、
おもえばずっと前からなぐられることはされてきたから、
きっと誰も、わからないのだろうなとおもった。


「お前みたいなやつは、生まれてこれなければ良かったと思うよ」

「そうなの」


手に、くるくると包帯がまかれていく。


「はい、おわり。部屋にもどれ」

「うんうん」


高槻さんの手がはなれたら、
またそこがずきずきと痛むようなきがした。


さわられている間が、一番いたくなかったの。


部屋にもどったら、パンの袋が1つおかれていた。

今日のごはんだ。


あけようとするけれど、手に力がはいらなくてうまくあけられない。

一生懸命ひっぱったら、パンが飛び出して床にころがった。


それを拾い上げて、埃を手ではらう。


あいたの。うまくあけられたの。


食事のじかんは、きっと、一番すきだった。

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くらやみ

冷たい朝


高槻さんの部屋についたら、彼はあからさまに嫌な顔をした。

顔をしかめながら、たばこを吸っている。


「お前が来ると、何つーか、面倒くさい」

「そうなの?」

「お前他の奴よりボコボコにされてくる」

「う?」


高槻さんは、切れ長の目に黒髪で、
体にさわって治療するときは眼鏡をかけているよ。


「手、見せろ」

「うんうん」


針で穴のあいた手をみせたら、
彼は大きな声でため息を吐いたの。


「良かったな、縫わなくていい」

「よかった?ぬわない?」

「お前、慣れすぎてショック死しないから、
麻酔使わないように言われてる。
麻酔もお金かかるからな」

「なに?」

「もう良い、やっぱお前面倒くさい」


彼がぼくの手にふれる。

いたいけれど、なぜだかほんの少しほっとする。

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くらやみ

冷たい朝


それから、どれだけなぐられたかわからないよ。

施設長さんは針みたいなの物ももっていて、
気づいたら、手にいっぱい穴ができていたの。

「ここまでされて嫌がらないって、気持ち悪いよ」

首をかしげた。

痛いから、はやくおわってほしいの。
でも、嫌がり方なんて知らない。


だって、いつものことなの。
うまれたときから、ずっとこうなの。


「化膿したら汚いから、高槻のとこ行ってきてよ」


うんうんと頷いた。

高槻さんは、”おいしゃさん”なんだって。
少し前から、この施設にいるよ。


高槻さんがいるのは、ぼくのお部屋から20歩くらいあるいたお部屋。
この前かぞえながら行ったから、よく覚えてるの。


施設長さんがお部屋から出たら、
こまかくなった”朝”をかき集めたよ。

でも、どれだけくっつけようとしてもくっつかないし、
それはもう、おひさまにはならなくなってしまったの。

ぼくは、やぶられてしまった絵本を、部屋のすみに置いた。

いつか、願いが叶うようなことがあったら、
あの絵本をもとに戻してもらうのになぁ。

立ち上がったら体がふらふらして、倒れそうっておもった。


「たかつきさんの、ところ」


あたまが真っ白で、まわらなくて、口にしながら歩き出す。


いつものことだから、かなしくないし、さみしくないよ。


ただほんのすこし、冷たいだけ。
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くらやみ

冷たい朝


「ん?いいよ。
ほら、名無しちゃん。
春が絵本くれるって。
と言っても、これ施設の本だけどねぇ」


施設長さんが笑って、ぼくに絵本をわたす。
それを胸に抱いたら、なんだかあたたかい気がしたよ。


「行きますよ、春」

「……は、はい」


春はくもったような表情をして、レンさんの後ろをついて部屋をでていったよ。
これから、一緒にすむんだって。


ぼくは外にはでられないって施設長さん言っていたから、
朝はまだみられないけれど、
でも、この絵本があるから、いいの。


「あーあ。蓮も春もいっちゃった。
あの2人は結構お気に入りだったんだけどなぁ。
綺麗だし、心があるしね。
まあ良いや。時が来たらまた迎えに行こっと。
しかしさあ、名無しちゃんは、本当につまらないよね。
不出来だね」


胸にだいていた絵本がうばわれて、
うえからしたへ、思いきり本をねじられる。

そんなことしたら、やぶれてしまうの。


「お気に入りがいなくなるとさあ。
やっぱり苛々するんだよね」

びりっと紙がやぶれるおとがした。


さっき春がよんでくれたえほんが、やぶれている。


「あ、やぶれるの。
くっつけないと、なおさないと」

「え?なんで?」

「ぼく、もらったの」

「名無しちゃんはこの施設の所有物でしょ。
僕は施設の長で、所有物の持ち物は好きにして良いんだよ」

「そう……なの」


明るくて、あたたかなお日さまが、びりびりになっていく。

ぼくはもう、それが見れないの。


お日さまがなくなったから、きっとまた、くらやみだ。


「ほんとお前ってさあ。面白い顔しないよね。
やだやだって泣いたら可愛げあるのに」

「ないたら?なくって?」

「あーあ。ほんと、五月蝿いだけ」


かみのけがつかまれて、床にたたきつけられたよ。
ほっぺたが、じんじんして、あついの。

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くらやみ

冷たい朝


春はそれから、絵本を声にだしてよんでくれたよ。

どんなに泣いても、
かなしくても、
落ち込んでも、
つめたくても、

ねむれば朝はやってくるんだって。


「朝って、すごいの」

「そうだね」

「ぼくも、いつか朝が見られるかな?」

「うん、きっと」


ぼくは、春が好きになったよ。
春のことも、この絵本のことも、すき。

どんなに目を凝らしても、朝はみえないけれど、
この世界のどこかに、あるんだって。


「ぼくはいつか、みたいの」

「うん」

「その絵本は、どこでもらえるの?」

「……君は、知らないかなぁ。
絵本がたくさん置いてあるお部屋があるんだよ。
文字が読めるのも、たくさん本を読んだから」

「ぼくは、ここから出たらダメって言われてるの」


施設長さんは、ぼくがこの部屋から出たらいっぱいいっぱい怒るよ。


「……そっかぁ。
あの人は、あまり怒らせない方が良いね」


おはなししていたら、ドアが開いて、
施設長さんと、春によく似た男の人がはいってきたよ。


「春、ここにいたのですか。
行きますよ」

「……あ、ごめん、なさい」


春によく似た人は、"レンさん"って呼ばれてるよ。
ずっと前からこの施設にいる人。

春のおとうさんって聞いたことあるよ。
ずっと若いときに、春ができたんだって。


「あはは、名無しくん。春に絵本読んでもらってたの?」

「うんうん」


施設長さんは、チョコレートのお菓子をもぐもぐ食べているの。


「春は、これからは蓮(れん)と住むよ。
この施設とはさようならだ」

「春、いなくなっちゃうの?
そしたら春は、朝がみられるねぇ。
施設長さん、ぼくは外には出られないの?」

「蓮は春の父親だよ。
親が準備をして強く申し立てれば、施設は親のところに返さなければならない。
けどね、お前は駄目だよ。
だってお前、親いないじゃん」


施設長さんは、ケラケラって笑ったの。

ぼくは、うんうんってうなずいた。


おとうさんとか、おかあさんとか、よく分からないの。


「……あ、の。
そしたらこの絵本、この子にあげたら、だめ、かなぁ……」

春は、何故かたくさん震えているよ。
施設長さんにも、レンさんにも、怖いって言うみたいに震えている。